アメリカ英語かイギリス英語か問題についての第2段。前回は、特定の市場に商品、サービスやメッセージを届けに行く場合、どちらの英語を使えばいいかというお話でした。今回は世界中の不特定多数の人に広くメッセージを届けたい場合のお話です。
世界の共用語は、言語ではない?
英語ライティングのお仕事では、特定の国や地域ではなく「海外向け」というように、受けとる人を特定しにくいケースも多くあります。本格的な海外展開を目指して国際展示会に初出品するケースや、世界各地から訪れる観光客向けに英語ツールを用意するケースなどです。
業種やテーマにもよりますが、日本ブランドのグローバル向け文書やツールをお手伝いするとき、ほぼアメリカ英語を使います。グローバル市場では、英語を母国語とする人もしない人も、共用語としての英語を通してコミュニケーションします。伝え手も受け手も、お互い自分の拠点を離れて「グローバル・コミュニケーションのフィールド」に参加している場では、うまく伝えることよりも、お互いの理解を確認し合うことにエネルギーを使います。伝え手が無理をして慣れない言語を使う必要はありません。
前回考えたように、特定の市場に飛び込んでいかなければならない場合は、受けとる人にとってできるだけ違和感のない言語を選びます。しかし、受けとる側も自分のフィールドを出て、共用語としての英語を通してメッセージをやりとりする場合は、自分の思いを伝えながら、受け手の反応を見る余裕を保つためにも、より自然に使える言語を選べばよいと思います。世界の共用語とは、ひとつの型にはまる言語のことではなく、国や文化を超えて理解し合うことを目指すコミュニケーションの手法のことだと、考えています。
多言語環境のコミュニケーション能力とは?
ヨーロッパやアジアの多言語環境で暮していると、彼らがいかに流暢に英語を使っていても、実は、かなりシンプルな構文と絞られたボキャブラリーでうまくやりくりしているのがわかります。よほど言語に感度の高い人でない限り、第ニ、第三言語としての英語に、複雑な構文やヒネリの効いた表現は使いません。日本でいう中学英語レベルの文法知識でも、巧みに使いこなせば、大学院レベルの議論を展開できる。言語能力以上にコミュニケーション能力の育成に力を入れているのだろうと思います。
多言語・多文化の人が集まるフィールドでコミュニケーションを取ることに慣れている人は、受けとる側に回ったときも、言葉の壁をヒラリと飛び越えるのが得意です。伝える人の英語が、イギリス英語でもアメリカ英語でもインド英語でも、馴染みのないアクセントや言葉遣いでも、内容そのものを受けとることに貪欲。特に、相手のことばを自分の理解でまとめ直して、確認質問をする「パラフレーズ」が巧みです。文字情報でも、スペリングや構文ミスをものともせず、事実と結論をザクッと捉えることが上手いです。
伝える熱意x受けとる熱意を込めやすい英語は、どっち?
そんなグローバル・コミュニケーションのフィールドでは、自分にとって自然に使いやすい英語で、ストレートに端的に表現すればいい。「ウィー・ニード・モア・ベター」なんて日本語英語でも、伝える熱意と受けとる熱意の掛け合わせで、交渉を成立させる日本人エグゼクティブがいらっしゃいます。
日本人にとって、率直なアメリカ英語はむしろ好都合だと思います。グローバル・フィールドでは、アメリカ英語をベースに、とことん平易にシンプルに削ぎ落とした表現を心がけています。
英語が得意ではない皆さまも、「ニード・モア・ベター」に「一緒にいいもの作ろうぜ!」という煮えたぎる情熱を込めて伝えればいい。文法は間違いでも、間違いなく、伝わります。
今後掲載予定の関連トピック:
異種間コミュニケーション、シンプルな表現ほど伝わる。"